63. 例えば、3年間ずっとノーミスでやってきた論田くんが、はじめてミスを出した。
3年前からずっとその仕事ぶりを観てきた上司と、異動していきなり論田くんのミスに出くわした上司と、論田くんへの印象は同じだろうか?
両者のミスの「情報占有率」がちがう。つまり、3年間のつきあいの中で、ミスが占める割合と、たった1回初めて論田くんと接した中で、ミスが占める割合と。
相手は、あなたが過去からずっと積み上げてきたすべての情報で、あなたを判断するのではない。結局は、そのとき相手が持っている情報だけで判断される。その中で、いい情報の占める割合が多ければ「いい人だ」となる。
あなたが「優しい人」で10年間怒ったことがなかったとしても、10年ぶりに怒ったとき、たまたま出くわした初対面の相手にとっては、それが100%だ。あなたを「恐い人」だと思う。
自分にふさわしい「メディア力」を相手の中に刻むために、ちょっと「情報占有率」を意識してみるといい。
コミュニケーションでは、出会いからはじまって、相手から見たあなたの「メディア力」が決まるまでの間が肝心だ。つまり、初めの方が慎重さがいる。ここで、かっこつけるのでもなく、でも、あなた以下にもならず、等身大の(注1)あなたの良さが伝わるのが理想だ。
いつも質の高い仕事をしているなら、はじめての仕事先に対し、決していつもの質を落としてはいけない。ふだん静かな人なら、初対面の相手にも、奇をてらったり(注2)せず、普段どおり静かにしていればいい。
自分にうそのないふるまいをする、ということは、初対面の相手にこそ大切だ。
さて、ここで問題なのは、ふだんとても穏やかなあなたが、その日はたまたま嫌なことが重なり、攻撃的になっているという場合だ。自分にうそのないということで、相手にきついことを言ってしまったらどうだろう。あなたにとっては、年に1回の、「たまたま不機嫌な日」でも、相手にとっては、あなたに関する情報の100%になる。
初対面の相手、まだ付き合いの浅い相手には、すこし慎重になって考えてほしい。
何が、
自分にうそのないふるまいか?自分の正直な姿を伝えるとはどういうことか?
日ごろ99%穏やかなあなたなら、1%の異常よりも、いつもの穏やかさを伝えるほうが、結局は、正直な姿を伝えている。相手の中に、あなたの実像に近い「メディア力」が形成されるからだ。初対面の相手にこそ、平常心であること、普段どおりにやることが大切だ。
(山田ズーニー『あなたの話はなぜ「通じない」のか』による)
(注1)等身大の:誇張のない
(注2)奇をてらう:変わったことをして、他人の気をひこうとする
63.筆者によれば、上司にとって論田くんのミスの「情報占有率」が上がるのはどのような場合か。
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